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青春は短い髪とともに。

わたしは、ショートヘアーが好きだ。

自分の髪の毛はベリーショートなのはもちろん、

かっこいい顔した女の子が短髪で、男の子のようにふるまっているのがすき。

女子サッカー部とか、クラスにいるさばさばした化粧っ気のない子とか。

あこがれるし、キュンとする。

恋する、に近いかもしれない。

全身から好きーーーーっていう感情が次から次へと溢れてく。

わたしは、その子を見つけてしまった。

話しかけたい。

友達になりたい。

とあるきっかけで仲良くなったりしないかな、と。

がんこで好きになると一瞬で深みにはまっていく私は、

一度その考えに取りつかれると、ほかのことはできなかった。

授業中も

わたしと同じ並びに座っているその子をちらちらと盗み見る。

そんな風に過ごしていたある日、

「とあるきっかけ」が訪れた。

あれはもうすぐ夏本番というよく晴れた、体育の時間だ。

「ねえ、首につけてるヘアバン、かわいいね。」

(え。)

すれ違いざまだった。

その子のことを意識しながらあるいていたわたしは

気が動転して、何も返せなかった。

いや、何か生返事はしたのかもしれない。

舞い上がって記憶はなかった。

その日からだ。

短く淡い青春の日々が始まったのは。

クラスみんなで受ける授業は、幸せな面持ちで彼女を見つめ、

教室移動の時間にたわいもない話をして。

長い長い夏休みは、会う約束をすればよかったと

過ぎない時間に、やきもきし。

幸せな時間だった。

だが、それも唐突におわる。

修学旅行の班も決め終わり、

学年全体の空気がそれ一色に染まりきったころ、

彼女は来なくなった。

念願だったはずの長崎、

来ない彼女。

浮足立った奴らに囲まれて、

空港から、バスに乗り換えホテルへ。

空席と一緒に窓の外を眺める。

行きたくなくなったところに引きずりまわされた。

つまらなかった。

行かなきゃよかった。

「授業つまんねー。ずっと長崎いたかったよー。」

「ねー。」

耳障りだった。

授業は退屈で無意味な時間に

学校は無機質な牢屋に戻った。

ゆっくり流れてほしかった時間は、

待てども過ぎない鉛のような時間になった。

もう、ほかの人には会いたくなかった。

単位が足りそうな授業の時間は、

屋上に出て、さび付いたベンチに座った。

マフラーを巻くようになり、コートを着込み、

ブランケットを腹に巻きつける。

ショートヘアーのあの子はもう来ない。

孤独が日常になった。

楽しかった淡い青春は消えたんだ。

消え去ったのだ、彼女とともに。

 

(実話をもとにしたフィクションです。)

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